3月3日は上巳の節句(じょうみのせっく)、いわゆる雛祭りだ。子供のままごと遊びが江戸時代になって行事として上流階級に取り入れられ、その後、庶民の間でも行われるようになったのが由来とか。
最近の雛飾りはコンパクトになった。昔の飾りを見ると、16、7段飾りなどという豪華なものもある。雛飾りはいつまで飾っておくと、娘の婚期が遅れるなどという言い伝えもあって、雛祭り前から飾りだして、3月3日が過ぎるとすぐにしまってしまう。考えてみると、人形は蝉の一生のように暗いところにいる方が長いことになる。
年中行事は農作業などに由来するものも多い。農業に携わる人口が減少したいま、年中行事が少なくなるのはやむを得ないが、住宅事情などもあってか雛祭りもそんな行事になりつつあるようだ。不要になったお雛様を集めて、大きな雛檀に飾り、観光客寄せのネタにしている地域もあるが、そんな方法でも伝統行事が残っていけばよいような気もする。
人形は人の作ったものだが、飾られたものを見ていると持ち主の魂が宿っているような気がしてくる。京都にある「人形寺(宝鏡寺)」の人形を見たときも、横浜の「人形の家」の人形を見たときも同じように感じた。古い人形ほどそれを強く感ずるのは気のせいだろうか。とくに強烈に印象に残っているのは、青森を旅行したときに偶然巡りあった金木の川倉地蔵尊の人形だ。お堂の中にはいると、着物をつけた地蔵、男女対になった人形、子供が持っていたと思われる人形などが、所せましと祀ってある。生前着ていた服や着物もつり下げていたりして、なんとも異様な雰囲気だ。この地蔵では、恐山で有名な「いたこ」が集まる例大祭もあるそうだ。そのころ、また行ってみたいと思ってはいるが、なかなかいく機会をもてない。
こんなことを思い出したきっかけは、スープを作るために切ったタマネギだ。真ん中に2本伸びかけている芽がお内裏様とお雛様のように見えたからだ。